自己嫌悪

具体的に何があったかと言うとですね、まぁ知らない男と喋ってたんですよ。
ゼミにはあの子は来たんです。そのゼミ、今日は図書館の輪読室という部屋で行われたんだけど、そこでバイトのマネージャーさんからの指令「指輪をしてるか見て来い」を実践したんです。気付かれないように横目でチラッチラッとね。するとあの子の指には指輪らしき装飾品は一切付いておらず、左手首に腕時計をしているだけでした。心の中でガッツポーズ。
ゼミ終了。輪読室からぞろぞろと退出するメンバー。あの子はボクより前に出て行った。ボクはいつも帰り支度が遅いので、部屋を出るのは最後の方。んで輪読室を出た瞬間、見てしまったわけです。ボクより前に出たあの子が男と喋っている現場を。その男は何やらゼミが終って輪読室からあの子が出てくるのを待っていたように出口の近くの机に座っていたのです。で、その男とあの子の会話が明らかに親密というか、出会って浅くは無いなというような感じでした。
精神崩壊。近くの文庫コーナーから観察して様子を窺っていればいいものの、もうその机の横を通りすがる瞬間以上の時間は二人の様子を見ることが出来ず、その現場には居たくなくなってダッシュで階段へ。階段降りる時は足の震えが止まらなくて、転げ落ちるのを必死に耐えた。大学を出ると、そんなボクを嘲笑するかのように外は暴風雨、現実から逃げようとスイッチを入れたMDのヘッドホンからはWANDSのLittleBitが流れる。電車の中でいろいろ考えました。一体ボクは何のために存在しているんだ。もしかして存在意義なんて無いんじゃないか。自分なんてただの思考回路を持つマネキンなんじゃないか。駅から家までの道で雨が止んで傘をたたむと、その傘を地面に叩きつけて真っ二つに折りたい衝動に駆られる。帰宅後、冷たいお茶を一気飲みしてペットボトルを冷蔵庫にしまったあと、冷蔵庫を思いっきり殴った。そうでもしないとやってられない気分だったから。ちなみに去年の杉内みたいになるのは困るから利き手じゃない方で。そして不貞寝。布団の中でもあの男と会話してるあの子の姿が目に浮かぶ。マネージャーさん、男いるじゃないすか―――
起きたあと、考えがある一つの結論に達した。それは、つくづく自分は精神が弱いということ。会話したことも無く中身がどんななのかも知らない女の子が男と喋ってただけでここまで追い詰められる。それに別にまだあの男が彼氏だと決まったわけじゃない。確かに親密そうに話してはいたけど、その顔に笑顔は無かった。むしろ何かの打ち合わせをしているかのように固い表情だった。いや、だからと言ってそれが恋人同士ではないという根拠にはならないけど。とにかく、傘を叩き付けたい衝動も、冷蔵庫殴打も、すべて自分の不甲斐なさと意気地の無さに対してのもんだということが分かりました。自分はもうダメです。これから大学生活やっていく自信がありません。すべてを投げ出したいです。大学休学にして、どこか遠くへ行ってしまいたい。